アルゲリッチの創る音楽祭はその名称に象徴されるように「出会い」を大切にしてまいりました。ヨーロッパで私自身もアルゲリッチと出会えたことは奇跡だと思っているのですが、考えてみればこの広い世界の中で全ての出会いは奇跡なのかもしれません。
 全く縁のなかった別府へ両親が移り住み、その縁から(故)中村太郎市長からご相談を受けて、音楽祭の依頼をアルゲリッチに!という、今思えば無謀なことをよくできたものだと思います。
 もちろんその後起きる様々な困難はその時には想像もしていませんでしたので、お受けできたことでもありました。その中で衛藤征士郎衆議院議員に(故)椎木正和会長をご紹介頂き今日まで交流が続いています。有難いことに深いご理解と信頼をしていただきアルゲリッチを顕彰して、このしいきアルゲリッチハウスを与えていただきました。
 人生に二度も奇跡が生まれるなんて本当に信じられないことです。この土地での環境下で頑張ったことを神さまが見ていて下さったのかもしれません。本当に有難く嬉しいことでした。
 椎木会長には常に温かなご配慮をいただき、ご寄附のお願いに伺った私にねぎらいの言葉や雨の日でも必ず会社の下まで降りて下さって、見えなくなるまでお見送りをいただいたことは今でも鮮明にその光景を思い出します。
 謙虚なお人柄に人として学ばせていただいたことも多くありました。やはり尊敬と感謝の上に信頼は築かれていくのだと思います。

 
椎木会長には行政が出来ない事を全て補っていただいた、と申し上げても過言ではありません。教育プログラムの「ピノキオコンサート」も全面的なご支援をいただきました。
 「これこそ人にとって成長過程において、芸術にふれて感性を養うことが大切だ」というお考えを示され、大いに頑張って下さい、と励まして下さいました。
 天才的な企業家でもいらした方ですので、本質を見抜かれ応援をして下さったのだと思います。自分の生きている時だけではなく、後世へ何を残せるのか、という視点からのことだったようです。このことはアルゲリッチと共に私たちが大切にしている原点でもあります。
 学力も必要ですが最後は「人間力」なのだ、という信念から続けている活動です。


 椎木会長から贈られ、大分県知事 広瀬勝貞氏により県有地が提供されて完成したハウスには、世界にひとつのハウスに世界にひとつだけのアルゲリッチ専用のピアノがあります。このピアノはアルゲリッチも「これ以上美しい音のピアノはない」と感激する程お気に入りの楽器です。ハウスの隅々まで心を込めてひとつひとつを吟味して揃えて参りましたが、その甲斐あってアルゲリッチも大そう気に入ってくれています。そして未来へ向けて有意義な活動をしていきたい、と話しています。
 何よりも音響の素晴しいサロンを活かして、サロン文化を根づかせてゆくこと。音楽を中心に深く芸術を知る機会を設けていきます。
 流行に左右されない自分の耳、目で判断できるような機会を長いスパンで経験していただいたり、親子で将来の職業選択の参考になるような各界の方々の講演も計画しています。
 もうひとつはやはり教育です。音楽の専門家によるレッスンもあります。
 そしてピノキオコンサートを中心にその内容を深め広げていくことによって音楽家の育成だけではなく、人としての成長を促していけるものを目指しています。
 もちろんアルゲリッチの「魂」を吹き込む為にできるだけ多くアルゲリッチにはサロンでの演奏をお願いしていきたい、と思います。
 そのことによってこのハウスがアルゲリッチと共に100年、200年と生きていくことになるのだと思っています。


 私たちが子どもたちへ残していく社会が今のままで良いのか、ということは熟慮しなくてはならないようです。ものの豊かさはあっても人の心をどこかに置き忘れてはいないのだろうか、と年々その思いは強くなっています。アルゲリッチが語っているように、音楽を創っていくようにお互いを尊重し、聴き合うことによって美しい調和が生まれる、このことを音楽を通して伝えてゆくこと。このことを具現化していきたいと考えています。
 ここ数年大分県は「おんせん県」として知られるようになりました。地方創生を目指す国の方針も示されています。
 このアルゲリッチが歩んでいる道こそ、地方創生の道でもあるのだと思います。真似事ではない独創性とアルゲリッチだからこそ可能となったクオリティの高さは、今や輸入国家であった日本からクラシック音楽誕生のヨーロッパへ、そのアイディアが輸出されています。
 スイス・ルガーノのプロジェット・アルゲリッチはここ別府での音楽祭が基となっています。アルゲリッチがかけてくれた「音楽の橋」と言っても良いでしょう。これはクラシック音楽に携わるアジア人として誇りに思うことです。
 そしてそのアルゲリッチの音楽活動の拠点まで完成できたことは日本の芸術史にとっても大きな出来事となったように思います。
 ここ東九州地域には、北九州、大分〜別府、宮崎、霧島と全域に音楽祭がある、という他にない素晴らしい特長もあります。とても文化的な地域でもあるのです。東京に集中している偏った国の形を文化、芸術で変えてゆくことも夢ではないのかもしれません。
 皆さまと幸せな時を分かち合い、夢をあきらめることなくアルゲリッチと共に未来への橋をかけてまいりたいと思います。
2016年8月



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